僕のミューズ


嫌なら止めればよかったんだ。
芹梨が迷っている時に、やめとけばって、俺がそう言ったら、多分芹梨は即決はしなかったはずだ。

自業自得だ。
芹梨にはこんな女々しい気持ちを悟られたくない。だから背中を押した。

頭ではわかってるんだ。
これでいいんだって。いや、これがいいんだって。

わかってるのに、何で。

くしゃっと頭を掻いた瞬間、肩にとんっと触れる手を感じた。

頭を上げる。斜め上に、夕日をバックに立っている芹梨がいた。

逆光でよく見えなかったが、その表情は、多分笑っていた。

『お疲れ』
「いや…芹梨のがお疲れだろ」

俺が苦笑して言ったら、芹梨もふっと笑って隣に座った。

『いつ来てたの?気付かなかった』
「忙しそうだったし、こっそり見てた。綺麗だったよ」

俺が素直にそう言うと、芹梨は嬉しそうに目を細める。
メイクはいつものものに戻っていたが、ウエーブのかかった髪はそのままで、夕方の風にゆっくりと舞っていた。