僕のミューズ



……………

夕焼けが随分早くなったと思う。

俺は先輩と登ったビルの階段で一人腰掛けていた。

あれから芹梨の撮影を抜け出して、コンビニでコーヒーを買ってずっとここに腰掛けている。

傷ついている?違う。そんな単純な言葉じゃない。

俺はずっと、芹梨を見てきた。
最初のショーの時から、芹梨だけをずっと見てきたんだ。

だから嫌と言うほどわかる。
芹梨がどれだけの魅力を持っているのか。
どれだけ万人を引きつけるオーラを兼ね備えているのか。

わかっているはずだった。
なのに、この焦燥感は何なのだろう。

俺はコーヒーの缶に吸いかけの煙草を落とす。缶の奥でジュッと火が消える音がした。