僕のミューズ



……………

先輩と会ってから数日後、芹梨からオーディションの件でメールが来た。内容は、先輩から聞いていたものだったのでさして驚かない。
芹梨はどうすべきか迷っているようだった。
オーディションに落ちたばかりだから、当然と言えば当然の不安だろう。

俺は芹梨に、『今日夜おいで』とだけメールを返した。

そうする事で、自分の中での葛藤を隠す。

芹梨に言うことは、もう決めていた。


…夜、俺のバイトが終わったのと同じくらいに、芹梨が家に来た。

特に出かける予定もないのでいつもより薄いメイク。ショーパンとラフなTシャツだが、それでも可愛く見えてしまうのは、芹梨の雰囲気のせいか、俺の盲目のせいか。

『お疲れ様』
「どーぞ、入って座ってて。麦茶でいい?」
『うん、ありがと』

リビングに芹梨を通し、麦茶を2人分運ぶ。
芹梨はテーブルの前に俯いて座ったまま、少しだけ微笑んだ。

多分、頭の中はオーディションの事でいっぱいなのだろう。

それがわかったから、俺は早々に話題に入っていった。

「モデルの仕事の、事だけど」

俺が切り出すと、芹梨の肩が一瞬震えた。
微かに唇に力が入った様に思う。

芹梨は小さく頷いたまま、少し視線を落とした。

俺は芹梨の視線に入る様に、手話を続ける。

「芹梨は、どう思ってるの?」

なるべく優しい声で言ったが、芹梨の耳には届いていないので意味はないかもしれない。
それでも俺は、声のトーンを変えずに言った。

「芹梨の思うことを、言ったらいいから」

俺の声が耳に届いたとは思えない。けど、芹梨はその指で、言葉を紡いだ。