僕のミューズ


俺は多分、「はい」と返事をしたと思う。
その後先輩といくつか話しをしたが、正直頭には入っていなかった。


先輩と別れて帰路につきながら、芹梨のオーディションの話を脳裏で繰り返していた。


芹梨は魅力的だ。
オーディションで芹梨を落とした奴の気が知れないと思った事も事実だ。

でも、その芹梨の魅力に気付いた人がいる。しかもそれは一人ではなく、ひとつの会社、事業を動かすレベルで。

それを知って、俺は初めて、芹梨の夢を一瞬応援できなくなってしまった事に気付いた。
そんな自分を誤魔化す為に思い切り頭を振る。


芹梨の夢だ。それが今、叶うかもしれない入り口が見えているんだ。
どうして俺が戸惑うんだ。誰より、応援してやらなきゃいけないはずなのに。


浮かぶのは、俺の隣で微笑む芹梨の横顔。


…誰にも見せたくないと思うのは、俺の醜いエゴだ。


気付きたくなかった汚い感情に、俺は目を閉じて蓋をした。