唇を噛んでいる俺を見て、先輩は少し逡巡しつつも話を続ける。
「意見は二分してたみたいだ。でも結局、俺の所が彼女を拒否したんだ。彼女がイメージに合わなかったとかそういうのじゃなく、そういう売り方をしたら彼女が潰れると思ったから。彼女には、正当に評価されるべき実力がある。俺の会社が首を縦に振らなかったから、結局事務所のオーディションも駄目だったわけだけど・・・」
一呼吸つき、先輩は言った。
「別件でね、彼女にオファーが来てるみたいなんだ。オーディションに来てた関係者で彼女を気に入ったブランドのデザイナーが、恐らく彼女に直接オファーをすると思う。勿論難聴という事実は伏せてデビューさせる。悪い話じゃないと思うし、俺の会社も介入してるブランドだからその辺は安心しても大丈夫だと思うよ」
一気に告げられたオーディションの流れに、俺は正直困惑していた。
気持ちを落ち着けるために残りのコーヒーを飲む。
芹梨のオーディションの結果にそういう経緯があったなんで思いもしなかった。
もしかしたら芹梨の夢が叶うかもしれないという事実と同時に、俺の知らない所で知らない人達が芹梨に一目を置いているという事実に、自分でも驚く程戸惑っている。
そんな俺の心境を読んでか、先輩は極力軽く言った。
「その話を小耳に挟んでさ、遥の事思い出して、ちょっと話ときたかっただけなんだけどな。多分芹梨ちゃんにはまた直接連絡が行くだろうし、その時には彼女から遥に話しがいくだろ。俺の会社も絡んでるし悪い話じゃないから、彼女が不安がってたら、安心させてやってよ」



