「実はさ、あのモデル事務所のオーディション、俺のとこのブランドのイメージモデルのオーディションも兼ねてたんだよね。俺の先輩が手がけてる新しいブランドなんだけど。俺も興味本位でオーディションちょっと覗いてたらさ、びっくりしたよ、彼女がいたから」
芹梨がどんなオーディションを受けたか詳しく知らなかった俺は、思わぬ繋がりに驚きを隠せずにいた。
「彼女、どの子とも比べられないくらい完璧だったよ。たったひとつ…耳が聞こえない事を覗いては」
先輩はその事実をあくまで客観的に伝える。
俺の心臓は、嫌な音をたて始めた。
「彼女はそれをデメリットと思っていたみたいだね。当日も、手話がわかる人がいなかったからあの日と同じ様に紙に書いてやりとりしてた。ただ…プロデュースする側からしたら、格好のアイコンだったんだよ。意味わかる?」
眉間にしわを寄せたまま首を振る俺に、先輩は続けた。
「つまり、耳が聞こえない事を利用して彼女を売ろうと考えてたんだよね、事務所は。難聴の美しいモデル、宣伝材料にはうってつけだ」
先輩から発せられた無情な事実に俺は頭に血が上るのがわかった。
芹梨があんなに悩んで苦しんで、それでも乗り越えてきた真実。
それを、簡単に利用しようというのか。



