僕のミューズ


ドアノブを捻った拍子に落ちたそれは、確実にドアの向こう側に掛かっていたものだ。

怪訝な表情を浮かべるあかり。
俺は彼女の横から腕を伸ばし、そのビニール袋を持ち上げた。

「…何?」

あかりが眉間にしわを寄せて呟く。

中を見ると、栄養ドリンクが二本。
その横に、小さな紙があった。

俺はそれを取りだし、開く。

文字を見た瞬間、俺は瞬きを忘れた。
雨の音が一瞬、全て消える。


『徹夜続きだって、伊織に聞いたから。明日まで頑張って下さい』


その、少し右上がりの文字。

何度も見た、会話をした、文字。


「…芹梨」


呟くと同時に、俺は駆け出した。


「遥っ!」


背中をあかりの声が追いかける。

でもそれは、雨と自分が階段をかけ降りる音にかき消された。

階段を降りて屋根から出ると、一瞬で全身がずぶ濡れになる。

でもそんなの関係なく、俺は雨の中を駆け出した。