『…ごめん。ちょっと、考えてもいいかな。返事急ぐ?』
そう聞かれた俺は、紺の言葉を思い出してすぐに首を振って答える。
「いや、返事は全然急がないから。まぁ…重く考えないで、ちょっと検討してみて」
少しでも芹梨に軽く考えてもらいたくて、俺は敢えてあっさりと言って、「買ってくるわ」とカウンターに向かった。
注文をしながら、背中の芹梨の表情を思い出す。
どこか思い詰めた様な表情。
そんな表情をさせているのは、何なのか。
カウンターの向こうで湯気を出すコーヒーを見ながら、あの日の芹梨の涙を思い出す。
いつも笑顔で、弱さをあまり見せない芹梨。
少しだけ芹梨の内側を見た様な、少しずつカードを捲っている様な、そんな気が、した。



