「来年の俺達の最後のショー、モデルとして出てくれない?」
普通に言ったつもりだった。
いや、俺は普通に言えていた。
普通じゃなかったのは、芹梨だった。
その大きな瞳が、一瞬空中で止まる。
瞬きを忘れたそれは、真っ直ぐに俺を見ている。
見ているというより視線を向けているだけ。その瞳には、俺が映っているのか定かではない。
まるで人形の様に、芹梨の表情は固まっていた。
「芹梨?」
俺は手話で『どうした?』と聞く。
その手の動きを見て、ようやくはっとした様に表情を溶かし、『ううん』と首を振った。
『ごめん、何でもない』
そう言って笑ったが、すぐに少し視線を落として、小さく手話をする。
『ごめん…モデルは、ちょっと考えてもいいかな』
そんな芹梨を見て、やっぱりあのファッションショーのせいかとちょっと焦って言った。
「あ、ごめん、やっぱり前のショーが…」
『あ、ううん、違う。別に前のショーのこと気にしてるとか、そういうんじゃなくて…』
芹梨はすぐに訂正を入れたが、やっぱり浮かない表情のまま、言った。



