「学校忙しい?」
『ううん。ゼミだけだし。卒論さえ書けたらね』
「卒論か。大変そうだな」
『遥君は、卒論ないの?』
「あぁ、うん」、そう言って、芹梨の飲みかけのキャラメルマキアートを飲む。口の中に甘さが広がる。
「俺らは最後のファッションショーが卒論みたいなもの」
そう言うと、芹梨があからさまに嫌そうな顔をしたからまずいと思った。
やっぱり芹梨にとってファッションショーは、あまりいいイメージがないのか。
そんな俺の考えとは裏腹に、芹梨は空になったマキアートのカップを手にして『全部飲んだ~』と片手で手話をする。
「あ、そっちね」
『え?何?』
「いや、何でも。買って来るって。何がいい?」
そう言って立ち上がったが、丁度ファッションショーの話題も出た所だったので、俺は今がチャンスだと咄嗟に判断した。
『普通のコーヒーでいいよ』
「芹梨、」
空になったカップを持ち上げて、『ん?』という表情をする。
そのくるりとした瞳に、不覚にも一瞬ドキッとしてしまう。
それがばれない様に、俺はできるだけ普通に言った。



