「やあ〜。兄さん」

扉の向こうで、満面の笑みを浮かべたレーンが、出迎えた。

「フン」

少し嬉しさが込み上げた自分に鼻を鳴らすと、ディーンは理事長室に入った。

「急だね。どうなさいました?」

レーンの言葉に、雪菜が扉を閉めるのを確認してから、ディーンはこたえた。

「惚けるな。雪菜を出迎えに出した…。もうわかっているのだろうが」

ディーンは、レーンを見つめ、

「私も、死んだヤーンも手段は違うが、人類の滅亡を望んでいた。それは、知っているな」

「いえ」

しかし、レーンは首を横に振ると、ディーンを促しながら、隣の部屋にある応接間に歩き出した。

「ヤーン兄さんは、新たな人類をつくろうとしていた」

奥のソファに座ったレーンの前に、ディーンが座った。

「同じことだ」

「同じじゃないよ。兄さん」

レーンは自らの両膝に肘を乗せ、腕を組むと、ディーンの目を見た。

「――どうした、レーン?」

ディーンは笑った。

「目に殺気が、こもっているぞ」

「兄さん」

異様な空気が漂いだした応接間に、お茶を持ってきた雪菜が入ってきた。

「彼女は、人を殺したくはないんだ」

「無理だ。レーンよ。宿めは変わらない」

「だったら!」

レーンの目付きが変わる。

「俺も変わらない」

「成る程」

レーンの強い口調に、ディーンは頷いた。

「お父様が、お前に継がせた意味がわかったよ」

応接間に現れた三体の土偶。

自然の鎧ディオネ。水の鎧タイタン。火の鎧エンケラドゥス。

「人類を守るか」

ディーンは目を瞑ると、ゆっくりと腰を上げた。

「それは、違う。守りたいものは、人類ではない」

レーンは、ソファの下に隠していた刀を取ると同時に、抜刀した。

その神速の速さに、ディーンは思わず後ろに飛んだ。

「守りたいものは、雪菜だ!」

レーンの剣は、ディーンを狙ったものではなかった。

お茶を置こうとした雪菜を斬り裂いた。