憂鬱な顔をしながら、夜の甲板に立つ赤星浩一の耳に、微かな歌声が聞こえてきた。

「レダ…」

赤星浩一は、呟くように名を口にすると、静かに目を閉じた。





「天使達が目覚めただと!?」

魔界の最深部にある城で、ギラは驚きの声を上げた。

「あの波動は、間違いない」

アルテミア不在の玉座の間で、カイオウは顔をしかめた。

「しかし!ここ数百年は、天使の降臨は聞いたことがない」

ギラの隣に立つサラが、眉を寄せた。

「天使が降臨する為には、人の穢れが必要。それも、同族殺しという汚名が…。その為、天使は実体化しにくかったはず」

カイオウは、玉座の間から外に目をやった。

人が魔物に襲われ、命の落とすことが多い…この世界では、人間を殺すことは、最大の罪としていた。

弱い人間は、団結し、数で勝負するしかない。

それなのに、人を殺した者を…ブルーワールドでは、咎人と忌み嫌った。

勿論、妬み、嫉妬はあるが、殺すことはない。

集団で襲われて、生きる為に他者を犠牲にして逃げることはあっても、決して人間同士では殺し合わない。

それが、本能の壊れた…実世界の人間と違うところであった。

魔物に殺され、喰われたとしても…食物連鎖の頂点にいないこの世界の人間には、仕方がないことであった。

魔物と人間の争いで、天使が現れることはない。

人間が人間を殺した時に、天使は清浄化する為に降臨する。

救う為ではない。

清浄化する為である。

そして、彼らの清浄化とは、無である。

だからこそ、人間から発生した天使と、魔物達は常に激突した。

地球上をリセットしたい天使にとって、魔物達はもっとも邪魔な存在であった。

歴代の魔王達は、天使達の戦いを経験することで、魔物よりも強力な魔神を生み出した。