その魔物は、他と気品が違った。

青く甲冑のように見える…全身を追おう鱗。濃い紺色の髪の毛に、2つの瞳以外に額に開いた小さな目。

海から出てきたばかりだというのに、全く濡れていない髪を風に靡かせながら、その魔物は赤星浩一に近づいていく。

「お初にお目にかかります」

魔物は、赤星浩一のそばまで来ると、頭を下げてから、名を名乗った。

「我が名は、海の騎士団長!アクアメイト!」

「同じく!」

上空にある太陽から、降ってきたように見えた炎の塊が、2つ…甲板に下り立った。

「炎の騎士団長!ライカ!」

「炎の騎士団!業火!」

女の姿をした2人の魔神が、名乗った後、頭を下げた。

「我ら!天空の女神にして、王!アルテミア様によりつくられた新しい騎士団長!」

アクアメイトの言葉にも、赤星浩一は反応しない。

「赤の王と言われる貴方でも」

「我ら騎士団長が集まれば、恐ろしくはないわ」

ライカと業火の言葉を聞いて、俯いたまま、目だけを向ける赤星浩一。

その瞬間、無意識に後退る2人。

「ば、馬鹿な…」

アクアメイトも、目を見開いた。

目からの殺気だけで、凄まじい魔力を感じたからだ。


「…うぐっ」

甲板上で繰り広げられている駆け引きを見て、艦長は唾を飲んだ。

あまりの緊張感に、艦長だけでなく、兵士も…そして、下級魔物達も動けなくなっていた。

動いて、少しでも空気を震わせた瞬間、殺させるような気がしたからである。

それは、騎士団長達も同じだった。

赤星浩一以外、異様な緊張感が続く甲板に、静寂を切り裂くように、再び上空から…誰かが下りてきた。

それは、天使の翼と…ブロンドの髪を靡かせた女神。

その姿を見た瞬間、甲板にいた魔物達は一斉に、跪いた。

「ビーナス!光臨!」

その姿は、アルテミアに似ていたが違った。

「ご機嫌よう。お父様」

女神は、赤星浩一にだけに微笑んだ。