僕はしばらく目の前の彼を見ていた。
すると彼は「まぁいっか」とだけ言って僕たちの前を風のように去って行った。
僕と奈緒子は互いを見つめ、首を傾げた。
「何だったんだろうね?」
「世の中には不思議な人がたくさんいるね。」
そう言いながら笑い合って駅に向かった。
奈緒子は僕と反対方向の場所に家がある。
だから改札口を通ったらすぐに別れた。
「また、来週」
「うん、またね」
手を振って僕は階段を駆け上った。
そして快速電車に乗り込む。
僕には行く場所があった。
そう、僕の秘密の場所。
僕だけのお気に入りの場所。
そこはここから少し遠いけれど気にしない。
辿り着くまでが楽しいんだ。
大好きな曲を聞きながら僕は電車に揺られる。
夕陽が沈んでいくその様は、どこか寂しそうで。
それを見ていたら蓮の顔が浮かんだ。
心のどこかでまだ納得できていなくて。
蓮が花音を振ったこと。
そんなはずない、と僕は唇を噛んだ。


