助けて、助けてよ。
僕が僕では無くなっていく気がする。
僕は僕のままでいい。
なのに莉子の寂しそうな横顔を見ていたら、何だか莉子に触れてみたくなった。
ゆっくりと時間だけが過ぎていく。
どくん、どくん。
心臓…うるさいな。
こんなにうるさく鳴るのは小学校の発表会以来だ。
胸に手を当てて、莉子の返事を待った。
すると莉子は真剣な目でこちらを見た。
「好きってね、すごく特別なの。好きな人を見ているだけで幸せになったり悲しくなったり。会話が無くても落ち着いたり。目を閉じるとその人浮かぶの。それは好きじゃないとならないの。不思議だよね、でも悪いことじゃなくて…」
胸が撃たれる。
そして今までの自分がすごく恥ずかしくなった。
僕は誰かを好きになったことなどなくて、周りの人たちは僕の経験したことのないことを既に終えている。
蓮だって花音だって奈緒子だって。
莉子だって。
僕は自分が脆く感じた。


