何も言わずに通り過ぎれたらどれだけ楽か。
だけどそうもいかない。
だって野中は僕を狙うかのようにこちらに視線を向けているから。
徐々に近づいていく距離。
何も言わずに通りすぎよう。
野中が何か言ってきたら黙って聞くことにしよう。
「あのさ、一つだけ忠告してもいいか?」
口を開けたのは野中が先だった。
ちょうど僕の横に並んだ時、野中は立ち止まった。
「…なに?」
「奈緒子を振ったのは俺じゃない。別れようって切り出したのは奈緒子なんだ。」
…まさか、そんなわけ。
だって奈緒子は野中に浮気をされたって泣いていたんだぞ?
今更野中の話を聞いたって信じられるはずかない。
僕は下を向いて黙ったまま。
「奈緒子に聞いたんだ。別れる理由を。そしたらアイツなんて答えたと思う?」
……そんなの知るわけがない。キミと奈緒子の問題だろう?
「奈緒子はタイムリミットだからって言ったんだ。」


