僕たちを見つめる奈緒子の表情が悲しそうだった。
「奈緒子…」
「先生呼んでるから、行こう?」
そう言って奈緒子は僕の腕を掴んだ。
従うように立ち上がり「分かった」と言う。
でも莉子を一人になんか出来ない。
転校初日だし、僕の説明で学校の構造が分かったか定かではないからだ。
「でも、莉子が…」
「あたしはもう少し屋上にいる。お昼休みまではまだ時間あるし、今日天気がいいから」
莉子は僕に手を振って空を見上げた。
僕は何も言わずに奈緒子と並んで屋上を出る。
その瞬間、耳に届いたのは莉子が先ほど図書館で歌っていた英語バージョンの童謡だった。
ふいに僕の足が止まる。
「流星くん?」
そしてゆっくり僕は後ろを振り返った。
空を見ながら楽しそうに歌う莉子の後ろ姿を見て、もう一度胸が強く鳴った。
生まれて初めての経験だった。
僕が恋をするなんて。


