気持ち良く歌う莉子がどこか羨ましかった。
こんなにも楽しそうに生きているなんて…。
何事にも興味がない僕が小さい人間に思えた。
「図書館では静かにしてください。」
すると図書委員の先生がこちらへ来て歌う莉子を睨んだ。
でも莉子は歌うのをやめない。
僕は莉子の腕を掴み図書館から逃げ出した。
向かった場所は屋上だった。
ここなら歌っていても怒られないだろうと思っていたら莉子の歌は終了してしまった。
「自由に歌わせてくれないなんて酷いですね」
「違うよ、場所がいけなかったんだ。」
あそこは図書館だったから。
私語厳禁の場所で歌ったらそりゃ怒られるに決まってる。
僕はアスファルトに座り、持っていた莉子のノートを渡した。
「莉子は何でノートをいつも持ってるの?」
そう立ったままの莉子を見上げて聞いた。
すると莉子は僕を見下ろしこう言う。
その瞳はどこか寂しそうだった。
「あたし…すぐ忘れちゃうから。」
「どうして?」
「そういう病気なの。」
莉子の弱い部分に触れてしまったのは僕だった。


