この世界は残酷なほど美しい



昨日と同じあの匂い。



「写真集…か。どういうの?」


「えっとですね……」




莉子は持っていたノートを開き何かを探していた。
そして見つけたのか僕の顔を見てこう言った。



「坂井雅さんのです!知ってますか?」



あまりにも目を輝かせて言うものだから、言葉をどこかに忘れてしまったようだ。


…知ってるもなにも…
それは僕の父親だよ…


なんて言えるはずもなく「知らない」と普通に答えた。




「好きなの?その人のこと。」



「あたしの好きな人が教えてくれたんです。だからあたしも好きなの。」




この時は大して気にも止めてなかった。
誰かが誰かのことを好きかなんて興味など無かったから。


でも…この時だけは。



「そうなんだ。」




「あと歌うのも好きです。」



そう言った瞬間、莉子は息を吸ってリズムよく英語で歌い始めた。
莉子の英語は英語教師より遥かに発音がよく、聞き取りやすかった。

たぶん聞いたことのあるメロディーだったからだと思う。


それは日本の童謡だったから。