奈緒子が前に言っていたこと。
“好きには理由なんか無い。”

今なら分かる気がするんだ。


「ねぇ、莉子」




僕は足を止めて莉子の腕を掴む。
莉子の体はあまりにも細くて触れたら消えてしまうのではないかと思うと怖くなった。



「……なぁに?」



莉子がゆっくりとこちらを見た。
そして僕の顔をじっと見る。



「やっと僕を見てくれたね」



そう笑って言うと莉子の顔がみるみるうちに赤くなっていく。


「莉子の照れた顔可愛いよ」



「もう、冗談はやめてよ。そんなこと言うと怒るよ?」




頬を膨らませてこちらを睨む莉子。
僕は何度も言うよ。
だって本当のことだから。
莉子が怒るくらい何度も。
だけど殴られるのは勘弁だから心の中で言うことにするよ。



「莉子にお願いがあるんだ。僕が莉子を好きでも莉子はいつもと変わらない態度でいて欲しい。目を逸らされると結構寂しいからさ」