自分が情けなく感じた。
今まで僕はなんて馬鹿みたいなことをしていたのだろう。
父さんは母さんをこんなにも愛していたのに。



母さんは僕の前で一度だけ弱音を吐いたことがある。
それは死ぬ前日のことだ。
僕に向かって母さんはこう言った。



「お母さんね、寂しい」




当時の僕はあの時なぜ“寂しい”と言ったのかが分からなかった。


母さんはもうすぐ自分が死ぬことを分かっていたとしたら。

あの“寂しい”の言葉には色んな意味が詰まっていたとしたら。


今まで触れることのできたことが出来なくなる寂しさ。
目に見えていた世界が見えなくなる寂しさ。
聴こえていたものが聴こえなくなる寂しさ。


そして父さんを愛せなくなる寂しさ。



母さんも父さんを全力で愛していたんだ。



僕は目に溜まっていた涙をゆっくりと流した。




「僕…行かなきゃ…」




「流星…」




「父さんに謝らなきゃ…寂しい思いをしてたのは僕だけじゃなかった。父さんも母さんもだった…!!」




僕が今まで見てきた世界は、あまりにも色の無い殺風景の世界だった。
だけど見えていなかった世界が見えた瞬間、僕の世界が少しずつ色づいていく。



僕のカラフルワールドはまだ始まったばかりだった。