「………は?」
呆れて何も言えなかった僕から出た声はあまりにも低かった。
「安野ってたまにおかしいなって思うことがあってさ。よく歌ってるし、何か普通の人と違うって言うか」
何言ってんだ、こいつ。
莉子のこと何も分かってないくせしてそんなこと平気でよく言えるな。
シーンと静まる教室。
僕はちらりと莉子を見る。
隣にいた莉子は今にも泣きそうな顔をしていた。
だけど必死に我慢をしているようだった。
そんな姿を見てしまった僕は目の前にいる奴が許せなくて、いつの間にか胸ぐらを掴んでいた。
奈緒子のときと一緒だった。
野中を殴ったときの光景がフラッシュバックする。
「お前、何言ってんだよ。分かったようなこと言うな。お前の中の普通の人って何だよ。普通もそれ以下もそれ以上もねぇだろ。人間は人間なんだ。それ以外何もない」
胸ぐらを掴む手が強くなる。
すると彼から「うっ」と唸る声が聞こえてきた。
そして隣にいた莉子は立ち上がり逃げるように教室から去って行った。
見えてしまったんだ。
莉子の瞳から流れる涙を。


