口の中にチョコレートの味がまだ残っている。
僕は走りながら悔しさと辛さを半分ずつ抱えて、あることを考えていた。
“人生は誰かのために生きる”
父さんが本当に雑誌で堂々どこんな言葉を言ったのならそれは誰のためだったのだろう?
ふとそう思い、確かめたかった。
あのまま莉子の隣にいても気持ちだけがついていけずに、今よりもっともっと苦しかっただろうから丁度良かった。
僕は走っていく。
家に着いたのはもうすっかり夜になっていた。
一日24時間ではやはり足りない気がする。
慌ててセキュリティを解除し、「めんどくさいな」と愚痴を溢しながらエレベーターに乗り込む。
部屋に着き、そこは当たり前のように鍵が空いていた。
あれほど鍵はロックしろと言っているのに。
靴を脱ぎ捨て父さんの部屋に行く。
「あのさ!!」
部屋の中にいた父さんはベッドに座り、あの写真集を見ていた。
「どうした?流星」
「父さんは誰のために生きてんの?」
静かな部屋に響く僕の声。
乱れる息がすんなりと耳に入ってくる。
父さんはパタンと写真集を閉じて僕を真っ直ぐに見た。
「昔は美羽のために生きてきたた。でも今は誰のためにも…生きていない気がする」
はじめてだった。
父さんが僕に弱音を吐いてのは。
だから僕は…
何も言い返すことなんか出来なかったんだ。


