母さんの部屋に行くと電気も点けずに立ち尽くす父さんの姿があった。
泥棒ではないことを確信した僕はホッと肩を撫で下ろす。
泥棒なんかあるわけがない。
ここのマンションは無駄にセキュリティがしっかりとしているから。
「帰ってきたの?」
そういえば仕事でヨーロッパに行くと行っていたな。
だからキャリーバッグにフランスのステッカーが貼られているのか。
父さんは趣味なのか知らないが訪れた国のステッカーをキャリーバッグに貼っている。
ほらカナダなんてもう5つも貼ってある。
今回は…ベルギーか。
「流星…これどうしたんだ?」
父さんは僕に爺ちゃんから預かった写真集を差し出した。
僕は父さんとは目を合わさずに返事をする。
「爺ちゃんから預かったんだよ。僕は興味ないからそこに入れておいたんだ」
「親父が…。そうか…」
そう静かに言い、父さんはベッドに腰を下ろした。
そして懐かしさを感じるように優しくその写真集を撫でた。
“あの約束を覚えていますか?”
帯の言葉が僕の目に入る。
そんなの、知るかよ。


