ヒロミ「元華族の人が来たのよ、あなたには関係ないわね。」
栗矢「室田が、オフクロさんを連れて挨拶に来たのかい。小母さんが、ペラペラ喋ったみたいだね。」
ママよう子「栗矢さんは何も知らないから、余計な事を話さないのよ。」
注釈(二人は、栗矢が室田のことを知らないと、勝手に決め込んでいる。栗矢は二人の会話にイラついたが、黙って聞いている。)
ナレーション「栗矢は、イラつく自分を鎮めようと目をつむって、大きく深呼吸をした。室田が旧華族であることは、当然知っていたし、それを隠すように振る舞ってきた。 栗矢には出生の秘密があり、室田は旧華族出身の身の上を、お互いに黙っていようと二人は約束していた。 室田は他人から奇異の目で見られる事や、あれやこれやと詮索される事にも嫌気がさしていた。それを利用しようと、群がってくる人たちには、もうウンザリしていた。世界大戦の後に華族制度が廃止され、室田の家も持っていた爵位を剥奪されて、地に降りた生活を強いられていた。その事で何の優越感も感じられなかったから、栗矢と約束したのだった。」
フミヨ「ねぇどうしたの、何を言っても黙って、返事ぐらいしてよ!」
栗矢「う、ああ、すまない。何だっけ。」
フミヨ「大丈夫?あれ知っているなら言った方がいいわよ。あんな言い方、しなくてもいいのに。」
栗矢「約束だから、言わない方がいいのかもしれない。」
フミヨ「約束って?私にも話して栗さんの事をもっと知っておきたいの、だからいつかは必ず聞かせてね。」