「今更、変えられない。一度男が言ったことだ」
「男が言ったとか、女が言ったとか、下らないぞ」
 誠治はそう言いながら、桃子もまた、口内炎であることを思い出した。思わず喉まで出掛ったが、何とか堪(こら)えた。
「正直に桃子に言ってみろよ」
「駄目だ。それは出来ない」
「面倒臭い奴らだな」
「何が?」
「粒山椒まで、何故、付けた?」
「ヤケだ」
「山椒は染みるぜ」
「だと思ってる」
「それはそうと、卓也、お前の家の前だぞ」
「上がっていけ」
「そうか」
「遠慮するな」
「初めからしない」
 卓也は誠治を家に招き入れた。二人は親友だが、受験という名の元に、こうして過ごすのは極めて久しい事だった。
「誠治は口内炎がよく出来てたな。対処方法とか知ってるんだろう」
「知ってるよ。ずっと戦ってきたから」
「痛みを避ける方法はないか」
「兎に角、食べ物が当たらないように気を付けるんだ」
「右や左の頬なら出来るが、この位置じゃ無理だろ」
「そうだな」
「手はないのか」
「無いこともない」
 誠治は、妹に話した内容と、これから話す内容を伝えた。
 卓也は渋い顔をしたが、麻婆豆腐へ向けて、早速、対策に乗り出した。
 
 誠治は桃子のため、受験勉強のため、家に帰ることにした。