次の日、桃子は学校の帰りに、兄のメモに従い、薬局で買い物をした。

 そんな折りに、誠治は卓也に呼び留められた。
 誠治も卓也も受験生である。学校の授業が終われば、未練なく家路についた。


「誠治、一緒に帰らないか」
「おっ、卓也。帰ってやってもいいぜ」
「僕が一緒に帰ってやるんだよ」
「素直じゃないな」
「そっちこそ」
「俺が好きなんだろ」
「何で?」
「言ってみただけだ」
「なら言うな」
「下らないやりとりが好きだ」
「我慢しろ」
「頑張ってみるよ」
「話がある」
 卓也は唐突に切り出した。
「だろうな」
 誠治は横を向いたまま答えた。
「だから、声を掛けた」
「分かってる」
「桃ちゃんのことだ」
「聞いたよ」
「麻婆豆腐を頼んだ」
「それも知ってる」
「困ってる」
「何で?」
「これを見ろ」
 卓也は下唇をめくった。
「これは、トライアングル・スペシャル!」
「なんだ、名前があるのか」
「俺が名付けた」
「あほくさ」
「アホクサ言うな」
「痛いんだよ!」
「そりゃ、そうだろう」
「トライアングル・スペシャルを説明しろよ」
「話せば長くなる」
「誠治、聞かなくても良いのか?」
「いや、是非聞いてくれ」
「素直に言えって」
「心の準備が必要だったのだ」
「何の?」
「興奮冷めやらぬ状態だったので」
「そんなに酷いのか」
「ステージ4(フォー)。末期だ」