「それでは今から治療を行う」
「待ってました」
「内科か歯科医に行けば、レーザーで焼いてくれるのが、今の流行だ」
「流行なんだ」
「しかし、口内炎でイチイチ医者に行っていたら、社会で生きてはいけない」
「駄目なの?」
「口内炎だけで医者に行く奴は、軟弱者だ」
「ふうん」
「風邪のついでに治してもらうとか、虫歯の折りに見付けてもらうとか」
「周りくどいね」
「そういうポジションの病なのだ」
「難しいね」
「取り合えず、口内炎の社会的ポジションが解れば、もう半人前だ」
「お兄ちゃんのウンチク聞くから、先をどうぞ」
「よし、ではまずこのメモの薬を、明日、薬局で買って来なさい」
「何これ」
「詳しい話は、明日だ」
「分かったわよ」
「今日は、歯を磨いて、ぐっすり眠るんだぞ」
「お兄ちゃんこそ、夜更かししないでね」
「ああ、勿論だ」

 その夜、桃子はさっさと布団に入った。桃子がトイレに起きた時、誠治の部屋からは光が漏れていた。
 桃子が隙間から覗くと、誠治が真剣に勉強していた。受験勉強に勤しむ兄は、妹の桃子に構っている時間など、本来ある筈がないのだ。