「さあ、本題を話せよ」
「本題?」
「なぜ、口内炎が治る二週間が困るのか、だろ?」
 話の脱線が多過ぎて、桃子は本題を忘れていた。
 いや、脱線などしていない。兄は話の筋道を、きちんと捉えようとしている。

「ごめん。そうだった」
「口内炎が痛いのか」
「痛い」
「我慢しろ」
「うん」
「問題解決か?」
「そんな訳ないでしょ」
「だよな」
「そうよ」
「話せよ」
「もうすぐ卓也の誕生日なの」
「いつだ?」
「来週末よ」
「土曜日だな」
「8日しかない」
「それで?」
「麻婆豆腐を作るの」
「マーボー?」
「卓也が食べたいって」
「口内炎に染みるな」
「染みるよね」
「天敵だ」
「どうしよう」
「卓也は他に何か言ってたか?」
「山椒を効かしたものが、好きだって」
「山椒か」
「粒山椒の粗びきを沢山入れた方が、美味しいって」
「卓也はいつも正論だ」
「やっぱり染みるよね」
「最悪だな。粒は物理的にも当たって余計に痛い」
「困ったわ」
「麻婆豆腐を別の食べ物に変えられないのか」
「約束したのよ」
「約束は守らないとな」
「そうよ」
「ひとつ解ったぞ」
「なに?」
「桃子の口内炎の原因」
「何よ」
「恋の病」
「あっそ」
「だろう?」

 顔を覗き込む誠治に、桃子はプイっと顔を背けた。

「お兄ちゃん、ちゃんと考えてよ。私は真面目に相談しているんだから」