三人の目の前に、熱々の麻婆豆腐が並んだ。
 粗びき山椒の風味が、部屋の中で充満している。
「卓也の誕生日だ。おめでとう」
 誠治が切り出した。
「卓也さん、おめでとう」
 桃子が続けた。
「ありがとう」
 卓也は兄妹に、畏(かしこ)まって答えた。
「卓也さん、これ、プレゼント」
 桃子は紙袋を取り出した。
「開けてもいい?」
「うん」
 いつの間にか、二人だけの雰囲気になった。
「俺は邪魔だな。どっか行こうか?」
 誠治はすぐに察した。
「お兄ちゃん、居てていいよ」
「誠治、そこに居ててくれ」
「お、おう」
 誠治は、慌てて二人に顔を向けられ、しどろもどろ答えた。

 桃子のプレゼントは、手編みのマフラーだった。
 さすが俺の妹だと、誠治は思った。王道なのだ。回りくどい方法は、誠治は嫌いだった。

「冷める前に食べましょうよ」
「そうだな。誠治、食べよう」
「まずは卓也の誕生日だ。卓也から食べるのが筋だな」
「じゃ、最初の栄誉ある一口は頂くぞ」
「食べて、卓也さん」
 卓也は麻婆豆腐を放り込んだ。
「美味い。美味いよ、桃ちゃん」
「ありがとう、卓也さん」
「桃ちゃんも食べなよ」
「うん、食べる」
 桃子は大口開けて、麻婆豆腐を口に運んだ。
「おいしい」
 桃子と卓也は、小踊りしてはしゃいでいだ。
「お兄ちゃん、食べてないじゃない。熱いうちに早く食べてよ」
 桃子は誠治に、自慢の麻婆豆腐を勧めた。