「お兄ちゃん、いる?」
「いるか、誠治」
 桃子と卓也の声がした。
 二人は玄関から、あっという間に入ってきた。
「どうしたんだ」
「お兄ちゃん、ご飯、まだでしょ」
「今、湯を沸かそうとしていたところだが」
「誠治、一緒に食べよう」
「お前たち、二人で食べるんだろ」
「卓也さんと話したの。お兄ちゃんが口内炎を治してくれたって」
「まさか桃ちゃんも口内炎だったなんてな。僕たちは、お互い気を使って付き合いたくなかったんだ」
「私も卓也さんも、ギリギリのところで、お互い素直になれたの」
 二人は満面の笑顔だ。
「そうか」
 誠治は少ないやりとりの中で、全てを理解した。
「食べよう。一人で食べるより二人。二人より三人の方が、飯は美味い」
 そう言うと、卓也は鍋を出した。
「何だよ」
「決まってるやろ」
「アレか」
「麻婆豆腐だ」
「マーばあさんの豆腐だな」
「それだ」
「ちょっと貸して」
 下らない会話が続くと見た桃子は、いち早く卓也の手元から鍋を奪った。
「温めるから、二人は食器を並べて、大人しくテーブルに座っていて貰えるかな」
 あっけなく、二人は桃子の言いなりになった。