とうとう運命の日がやって来た。
 桃子の口内炎は、ほぼ完治し、痛みはなくなっているどころか、外観上も分からないほど、勢力が衰えていた。
「ありがとう。お兄ちゃん」
「なんとか間に合ったな」
「うん」
「山椒がピリピリに効いた、辛いのを作ってやれ」
「そうするよ」
「負けるな、桃子」
「勝ったようなものよ」
「油断するな。スタートラインに辿り着いたばかりだぞ」
「大丈夫だって」
「じゃ、今夜の夕食は卓也の家だな」
「そうなるわね」
「卓也の親御さんはいるのか」
「夫婦揃って、映画に行くそうよ」
「何!? では二人っきりか!」
「ちょうど良いでしょ」
「どこがだ」
「その方が都合がいいわ」
「まだ高校生なんだ。健全にお付き合いをしろ」
「何言ってんの。卓也さんの事、お兄さんが一番知ってるでしょ」
「まあ、そうだが」
「心配ないよね」
「しかし……」
「だから、心配しないで」
 桃子は嬉しそうに、出掛けていった。途中で買い物をして、そのまま卓也の家に行くのだそうだ。