誠治は卓也の真剣な眼差しに圧倒されて、ややこしくなったな、と苦笑いするしかなかった。
「卓也、アホだろ」
 少し落ち着いてから、誠治が言った。
「今の僕は、阿呆と言われても、甘んじて受ける」
 卓也は襟を正して答えた。
「よく考えてみろよ」
 誠治は卓也を睨み返した。卓也はそんな誠治の眼差しに、ようやく気付いた。

「仲の良い兄妹だ」
 小さな声で、卓也は言った。
「そうだろう」
 誠治はゆっくりと諭した。

 二人は馬鹿らしくなって、お互いを笑った。

「珈琲、入れるよ」
「すまん」
 卓也は部屋を出ていった。
 誠治はそれを見届けると、安心したかのように、大きな欠伸を解き放った。

 卓也の誕生日まで、後二日。
 誠治は物思いに耽った。

「珈琲だぞ」
 卓也が戻ってきた。
「うまいな」
「当たり前だ」
「ちゃんと勉強してるか」
「それなりにな」
「志望の大学、入れそうか」
「俺は頭が良い」
「あっそ」
「お前こそ、桃子にうつつを抜かしていて良いのか」
「遅かれ早かれ、同じことだ」
「なら、今日から俺を、お兄ちゃんと呼べ」
「誰が」
「お前だよ」
「本当に呼んでやろうか」
「やっぱり止めてくれ」
「いや、呼びたくなってきた」
「我慢してくれ」
「我慢できない」