桃子の口内炎が順調に癒える中、誠治はもう一人の悩めるファイターから、呼び出しを受けた。
 卓也である。
 誠治は早速、卓也の家まで、飛んで行った。
「うまくいってないのか」
 誠治の方から声を掛けた。明らかに卓也はやつれ果て、憔悴しきっていた。

「大丈夫か」
 誠治は返事のない卓也に、もう一度、声を掛けた。
 消え入りそうな小さな声がするが、誠治には何を言っているのか聞き取れなかった。
「ちょっと見せてみ」
 誠治は強引に、卓也の下唇をめくった。
 卓也のトライアングル・スペシャルのアイランドは埋没し、白濁していた海は、透き通ってきている程だ。
「おい、卓也。治ってきてるやないか」
「うむ」
「なんで元気がないんや」
「桃ちゃんに言われた」
「何、桃子に」
「そうだ」
「振られたのか」
「ショックだ」
「嘘だろ」
「お前の話しかせん」
「どういうことだ」
「だから、お前のことしか話さんのだ」
「フム」
「桃ちゃんの心の中には、お前しかいないんだ」
 卓也は誠治の両肩を掴んで、激しく揺さぶった。
「待て、待て。桃子は妹だ」
「そんなことは、百も承知だ」
「なら、考え過ぎだろ」
「違う。桃ちゃんはお前を愛している」