「毎日、これをやるんだ」
 誠治は突き放すように言った。
「毎日するの」
 桃子は目を丸くした。
「考える時間は、残されてはいない。目を丸くしたって駄目だ」
「うえーん」
「どうだ、少し痛みがマシになっていないか」
 そう言われてみると、桃子は口内炎の痛みを忘れていた。
 いや、明らかに軽減されている。
「お兄ちゃん、効いてるよ」
「そうか」
「すごいね。お兄ちゃん」
「当たり前だろ」
「さすが、口内炎ファイター」
「もっと言ってくれ」
「お兄ちゃん、調子乗り過ぎ」
「なあ、肝心の麻婆豆腐は作れるのか」
「そっちは大丈夫よ」
「余裕だな」
「料理が得意なのは、知ってるでしょ」
「そうだったな」
「これで、粗びき山椒たっぷりの麻婆豆腐が作れるわ」
「まだ治ってないのを、忘れるな」
「分かってるわよ」
「卓也の誕生日まで、痛みを伴う試練が、待っているのだぞ」
「頑張るよ」
「よし、良い心構えだ」
「お兄ちゃんの妹だもん」
「そうだな」
「お兄ちゃんも、勉強、頑張ってね」
「任せとけ」
 兄妹は抱き合って、健闘を讃え合った。