「ひぃっ」
 桃子は腕をジタバタさせた。誠治は気にせず、綿棒を動かした。
「桃子、もう少しだ」
「ひぃ」
「その痛みの先が、卓也との幸せだ」
「うう」
「終わったよ」
 桃子は口を手で押さえて、痛みに耐えていた。
 そんな桃子に、誠治は最後の一品を手にした。
 一般的に余り知られていないが、のど用スプレーには、口内炎に効くと表記のあるものがある。
 誠治は、のどの痛み・口内炎に、と書かれた部分を指差した。
「知らなかったわ」
 桃子がようやく口を開いた。
「まあ、マイナーだからな」
「それで、どうするの」
「もちろん、かける」
「えっ?」
「追い討ちだ」
「染みるよね」
「冷血に噴霧する」
「さっきより染みる?」
「皆殺しにする。情けはかけない」
「口内炎には良いけど、私に情けは掛けてよ」
「兄ちゃんの行為が、桃子への愛だ」
「解ったわよ。早くやって」
「いくぞ」
「いいわ」
「くたばれ、口内炎」

 シュシューッ。

「きゃああ」
 桃子の声が、部屋中にこだました。
 高らかに笑いながら、口内炎を攻撃する兄は、これ以上もないエクスタシーを感じていたに、違いない。