夕食後、桃子の部屋に誠治がやって来た。
「桃子、買ってきたものをだして」
「出したよ」
 ジャラ、という音と共に、袋から中身が出た。
「まず最初は、これ」
「ビタミン剤ね」
「ボトルタイプを選んだのは、継続に耐えるための量を重視したのだ」
「これ、ビタミンBが多いわね」
「疲労回復と口内炎には、ビタミンB群を採ることで効果が期待できる」
「ふうん」
「しかし、お兄ちゃんの経験則から、ビタミンCも必要だ」
「だから、このタブレットキャンディーね」
 桃子はレモン味のタブレットキャンディーの袋を取り上げた。
「タブレットが良いんだ。圧縮した固形の粉だから、早く消えて、口内炎に優しい。飲み薬にしなかったのは、気を紛らわす効果がある。リラックス効果だ」
「簡単ね」
「甘い」
「酸っぱいわよ」
「レモン味の話をしている訳ではない」
「なによ」
「これだ」
 誠治が手にしたのは、綿棒である。
「何するの」
「これに浸す」
 殺菌消毒液である。
「使えるの?」
「勿論、ちゃんと確認しなければ危険だ」
「どうするの」
「口を開けて」
 桃子は言われるがままに、あんぐりと口を開けた。
「いくぞ。覚悟はいいな」
「染みるの?」
「ものすごく染みる」
「わかった。やって」
「白い部分に塗る。表面を傷付けないように、繰り返しはご法度だ」
 誠治はそう言いながら、桃子の白いクレーターに、液に浸した綿棒を押し当てた。