「…じゃあまだ間に合うな」 「何がですか?」 課長がおもむろに私の手を取りながらあの言葉を口にする。 それは誰もが当たり前に聞く言葉。 だけど私にとっては初めての言葉。 「すみれ。誕生日おめでとう」 左手の薬指に填められたのは課長らしい、あまり飾らないシンプルな指輪。 …たった一言が。 当たり前の一言がこんなにも嬉しいものだったんだね。