けれど、柾が12歳になった頃、私たちにあるものをおねだりしたの。




-「僕、フルートが欲しい」-




肺の弱い柾が楽器を吹くなんて…。



でも、柾のお願いをかなえてあげたいっていう気持ちもあって…。




私たちは柾にフルートをプレゼントしたわ。



それから毎日のように柾の部屋からはフルートの音が聞こえてきた。



日に日に上達していく音色。



その音はとても心地がよかった。





だけど、私たちの不安は的中したわ。




フルートを吹く度、柾の肺に負担を掛けていっていたの。



病気は悪化する一方だった。




その事実を知った後でも、柾はフルートを吹くことをやめなかった。




どんなに私たちが止めても…。



柾は練習をやめることはなかった。






だから私は心を鬼にしたわ。



フルートなんかより柾のほうが大事だったから。