「あ……」


作業に没頭してから、しばらくが経った頃。後ろから、吐息にも似た、小さな声が上がった。

振り向いてみると、楓が薄い本を手にしていた。


「アルバムか?」

「ん……」


開かれたアルバムを覗き見るとそこには太陽のように、眩しい笑顔を浮かべた、男女が写っていた。

若い頃の、俺と楓の両親の姿。


車椅子に座り、長い髪をなびかせ、幼い顔をも隠してしまいそうな程大きな麦わら帽子を被った俺の母、リエ。

その車椅子を押しているのは、短く髪を揃え、アロハシャツに短パン姿の軽そうな格好の男、俺の父、ヒナタ。



その隣で、しゃがみこみ、母さんと手を繋ぎ、つり目ながらも優しく微笑んでいるのが、楓の母、ユウカさん。

そのユウカさんの肩までしかない髪を弄り、笑っている長髪の男性がシンジさん。楓の父。

夏のようだが、シンジさんはタキシードのような格好で、暑くないのか?


「みんな、若い」


「だな。10代かな。親父達が若い若い」


「これ、なんて読むの?」


右下に書かれた、……英語?
Famille de la soleil…….


「それな、ファミーユ・ドゥ・ラ・ソレイユ。フランス語で太陽のような家族達って意味だそうだ」


「え……?」


不意に耳元で、あのアホ親父の声がした……。気がした。


「……? どうしたの?」


「あぁ、いや。なんでもない。それな、フランス語で太陽のような家族達、って意味だそうだ」


あの声と、同じ事を、俺は口にしていた。もしかして……、俺キちゃってる? もしくはイッちゃってる?


「だそうだって……、誰かに聞いたの?」

「そんなとこかな?」

「……お盆だもんね」

「かもな」


不思議な笑いが起きた。
もしかしたら、楓も感じ取っているのかもしれない。


そして、楓の手は、アルバムをめくっていた。