卓巳君の部屋のチャイムを鳴らす。

ここに来るのも最後かもしれない……そんな考えが頭をよぎって、インターフォンのボタンを押す手が少しだけ震えた。



「いらっしゃい」


いつもと同じ。

あたしを迎えてくれる卓巳君の笑顔。

この顔が好きだった。

笑うとほんの少し目じりの下がる卓巳君の優しい目が好き。

何度も見てるのに、最初に目が合う瞬間はいつもドキドキしちゃって、あたしは人見知りをする子供みたいに、わざと目を逸らしちゃうんだ。



部屋に通されたあたしはコートを脱ぐ。


そうだ……。

さっそく食べちゃおうかな。

あたしはさっき買ったばかりのクッキーの入った紙袋を手に取った。


「卓巳君っ……あのね。これっ」


振り返ったとたん、卓巳君の腕の中に包まれていた。

その腕の力がどんどん強くなる。

ぎゅうぎゅうと締め付けられるような圧迫感。


「卓巳君……?」


胸の中からなんとか顔をあげて呟くと、そのまま卓巳君に唇を塞がれた。


目を閉じて……神経を集中させる。

卓巳君の甘い香りに包まれて唇の感触と温度を味わう……。


――好き。

好きなの。


これだけで胸がいっぱいになって、切なくて、涙が溢れそうになる。


卓巳君はいったん唇を離すと、何も言わずあたしの顔をじっと覗き込む。


その表情からは感情が読み取れなくて、あたしの胸はざわざわと落ち着かなくなる。

卓巳君はいつもあたしを不安にさせるね……。


あ……ダメだ。

涙腺が緩んできた。


うるうるの瞳で見上げていたら、今度はさっきよりずっと熱いキスをされた。


「……んっ……」




甘く熱い吐息が口から漏れる。

卓巳君は片方の腕であたしの腰を引き寄せると、もう片方の手で髪をくしゅくしゅと撫で上げる。

せっかくまとめた髪はあっという間に崩れてしまった。


さらに腰にあった手が少しずつ背中を撫でるように上がっていき、ワンピースの背中のファスナーに手がかかった。