不機嫌でかつスイートなカラダ

静まりかえった車内にはピリピリとした空気が漂っていた。


車はやがて市街地を離れ、閑静な住宅街の中を通り抜ける。

このあたりは山を切り開いて開発された新興住宅街だ。

先ほどまでのクリスマスカラーに彩られた賑やかな景色とはうって変わって、なんだか寂しい。

お店などはほとんどなく、街路灯が暗い夜道を照らしているだけだった。


このまま山を登り続けるのかな。

住宅街を抜けた先には何があるんだろう……。


ふと頭に過ぎる。

たしか採石所があったはず。

時々大きなダンプがここを通るのを見たことがある。


最悪の事態を想像してまた背筋が寒くなる。

まさかとは思うけど……。

あたし達、殺されて……埋められちゃうとか……。


「卓巳君……」


あたしは不安にかられて卓巳君の顔を窺う。


「ごめんな……ヘンなことに巻き込んじまって……」


卓巳君は冷たくなった指で、さらに強くあたしの手を握り締めてくれた。

だけど、その言葉や仕草が余計にあたしを不安にさせる。

――卓巳君も緊張してるんだ。


でも……。

怖いけど……。

卓巳君と一緒だったら平気。

あたしのピンチには駆けつけるって言ってくれたもん。

卓巳君ならきっとあたしを守ってくれる。

あたしは覚悟を決めるとゴクリと喉を鳴らした。



やがて車はそのスピードを緩めた。


ウィンカーのカチカチという音とともに、ハンドルは右へ切られた。


どうやら採石所に向かっていたわけではないらしい。


吸い込まれるように大きな門をくぐりぬけると、その先には、5階建ての白い建物が見えてきた。


「あ……」


ここは……。