「一度、店に来てくれたでしょう? あの時はどうも」


「なんで……あたしの名前……」


和美さんはクスクス笑う。


「だって、あの交差点でお友達と話してるの、ちょっとだけ聞こえちゃって」


あの時の沙耶との会話……。

やっぱり聞こえてたんだ。


「それに……アナタと卓巳のこと、大学でもかなり噂になってたしね」


そか……。

卓巳君、あたしとのこと、みんなにしゃべってたんだもんね。

当然、和美さんの耳にも届いていたはず。

じゃ、和美さんはあたし達の関係にずっと前から気づいていたの?

それなのにどうして?

どうして、あの時、何も知らないような素振りを見せたの?

あんな天使みたいな笑顔を、どうしてあたしに向けてくれたの?

和美さんは卓巳くんとつきあってるんだよね?

わけがわからないまま黙っているあたしの耳元で和美さんが囁いた。


「アナタも来てくれるわよね……?」