その態度が余計に里加ちゃんをムカつかせたのかもしれない…

けれど、私もだんだん腹が立ってきた。

何で、私が里加ちゃんなんかに駄目出しされなきゃいけないの?

私の方が、断然上手いんだけど?

何か、私すごく嫌な女…。

里加ちゃんなんか相手にしたら、私までおかしくなる。

もう考えるの止めよ、何も考えないでおこう…

けど、どこかで私は、里加ちゃんの事を羨ましく思った。

どんなに無茶苦茶な事をしても、何でこの人は虐められないんだろう?

どんなに人に酷い事をしても、何で良心が痛まないんだろう?

私だったら、あんなに酷い事を人に言ったら、良心が痛んで家で後悔したり、眠れなくなったりするのに…。

何も感じないの?

一体どんなけ人を傷つける事に平気なんだろう?

一体どうしたら、あんな風になっちゃうんだろう?

もうムカツクから、歌わんとこうかなと考えていたら、七海ちゃんが、

「録音しよう」

って提案した。

「そしたら、ちゃんとどこが悪いか分かるんじゃない?」

と言った。

神様だと思った。

やっぱり、七海ちゃんは凄いなと思った。

才色兼備で性格も良い。

私が男の子だったら、絶対に好きになっていたと思った。

そして録音は大成功だった。

七海ちゃんが

「ソプラノより私達アルトが変じゃない?分かれて練習しよう。」

って言ってくれたおかげで、変なとばっちりがこなくなった。

だけど、だんだん七海ちゃんにも腹が立ってきた。

この人、良い所ばっかもっててるよ…

里加ちゃんに酷い事を言わせておいて、自分は良い人だって、周囲から認めてもらうチャンスをいつも窺ってるんでしょ?

そうじゃん!

じゃあ、何でソプラノの子がこんなに傷ついた後に言うの?

もっと早く言ってくれていたら、こんなにまでみんな傷付かずにすんだでしょ?

私の怒りはピークに達していた。

葉子ちゃんに

「香、何か物凄く悍ましい顔してるよ?」

と言われて、はっとした。

何て事考えてるんだろう…

七海ちゃんはそんな人じゃない。

田川くんの元カノなんだから…

そんな人な訳ないよ。

俊也が私を見ていた。

どうしよう…

今、こんな事考えて、物凄い顔になっている私を矢吹くん見てたよね?

嫌だ、お願いだから、見ないで…

でも、そうでしょ?