どうしてツバメがここにいるのかしら、なんて、どうでも良かった。

 あたしはほっとして笑って、それからまた涙が溢れてきた。

 ―ツバメ、帰りたいんだけど。

 だけどツバメは難しい顔をして首を振った。

 ―どうして?

 ツバメはそれには答えず、その返り血はどうしたんだ、と聞いた。

 言われて初めて、あたしの白いドレスが真っ赤に染まっていることに気付いた。…こうなるから、おかあさまは黒いドレスばかり着てらしたのかも。

 ―今初めて気付いた。

 そう、正直に伝えると、ツバメは、刺したのか、と聞く。無口なツバメ。誰を、とか、どうして、なんて聞くことはない。

 ―死んだかもしれない。

 ツバメは複雑な顔をして、やはりあの女の、と呟いた。

 あたしが聞き返すと、ツバメは何でもないと言う。

 ツバメからは、あの、馴染みがないのにどこか懐かしい、煙草の匂いがしていた。

 あたしはその匂いを吸い込んで、また少し泣いた。

 ―なんでそんなに泣くんだ。

 ツバメが呆れたように言うので、あたしは、気のせいだ、と言い訳にもならぬことを呟く。

 薄闇の街を、あたしは、ツバメに手を引かれて歩き出した。

 少しだけ、息が深く吸える気がした。

 遠くに行くのだなあ、と、些か感傷的にため息をつくと、あたしの心臓はとくんと跳ねるのだった。