あたしはその女の人の家に連れて行かれた。

 あなたを助けてあげる、安心して頂戴、あなたはもう自由なの、と、女の人が唾を飛ばしながら喋るのを、あたしは虚ろな目で眺めていた。ふと、この女の人は何かに似ているな、と思ったら蝦蟇だった。あたしがくすりと笑ったのを見て、女の人はまた大仰に騒ぎ立てて、あたしを抱きしめた。その腕のなかで、あたしは、これからは蝦蟇夫人と呼ぶことにしよう、と密かに決めたのだった。


 そろそろ蝦蟇夫人にはうんざりだ、と思い始めたころ、別の誰かが入って来た。

 こんどは男の人で、びっくりするくらい蝦蟇夫人にそっくりだった。こっちの呼び方は…蝦蟇息子でいいかしら。

 蝦蟇夫人は、にいい、と笑みを浮かべて、息子よ、と言った。いい子なのよ、あなたこれまで友達もいなかったのでしょ、仲良くなさいね。

 蝦蟇息子は、照れたようにもごもごと、何か呟いて、あたしの手を握った。そこに込められたなんらかの欲望に、あたしは怯えた。

 笑わせないで、自由なんかいらないわ、友達だってツバメがいればそれでいいもの、などと胸の中では叫んでいたのだけれど、それは何故か喉元でつっかえてしまい、あたしはただ、俯いて涙を流した。

 おかあさまはどうなさったのかしら、どうして助けに来てくださらないのかしら。

 いやな想像が頭をよぎるのを、首を振って振り払った。

 蝦蟇たちはあたしが悲しんでいるのを見て大騒ぎして、あたしの肩や背中を叩いたけれど、あたしは構わず泣きつづけた。