ある朝、おかあさまはあたしを起こしにいらっしゃらなかった。

 あたしは太陽が高く昇ってから目覚め、おかあさまはどうしたのかしらと思ったけれど、あたしのお部屋には鍵がかかっていたし、窓には鉄格子が嵌まっていたから、おかあさまがあたしを呼びに来て、お庭に出してくれるまではどうしようもないのだった。

 あたしは何日もベッドの上に腰掛けたり、お部屋の中をうろうろうろうろ歩いたり、わけもなく踊ってみたり歌ってみたりして過ごした。お腹が空いたら、部屋中に散らばったマカロンとかキャンディをかじっていた。

 そして、いきなりドアが開いた。

 あたしは、おかあさまだと思って駆け寄った。おかあさま、どうしてあたしを何日も放っておいたの、あたしのこと忘れちゃったの、なんて、おかあさまに言いたい文句をたくさん考えながら。


 だけど、そこにいたのはおかあさまじゃなかった。

 すうっと背が高くて夢みたいにおきれいなおかあさまと違って、ずんぐりとして、あんまり若くなくて、厚化粧の、知らない女の人が立っていた。

 あたしは悲鳴をあげて後ずさった。

 女の人は表情を歪めて、かわいそうに、と叫んだ。それからあたしを捕まえようとした。

 あたしは何がなんだかわからなかった。あたしはかわいそうなんかじゃないし、ずっとここにいたかった。

 女の人の太い指があたしの袖をとらえた。

 いや、たすけて、おかあさま、おかあさま――あたしは、その女の人に抱きしめられながら叫びつづけた。