―ツバメ?

 あたしの震える声に、ツバメは薄目を開けた。…思った通り片目は開かない。

 ―無事か…

 あたしが、ツバメはぼろぼろね、と言うと、ツバメはちいさく笑った。

 ―あの女を、俺が殺した、から。

 ツバメは切れ切れに言う。

 ―おまえには、まともに…生きてほしい。おまえが、太陽の下で生きていけるところを見つけたから、

 ―行かない。

 あたしの声は、想像以上に冷たく響いた。

 ―あたしを解き放つ?そんなのエゴでしかない。あたしはあんたとおかあさまがいればそれでよかったのに。笑っていられたのに。

 そう、諸悪の根源はきっとツバメのエゴイズム。それがなければあたしの両手はきれいなままだった。

 ―あたしはツバメを赦さない。

 ツバメはただ、さみしげに笑う。

 わかってる、ツバメはあたしの幸せを祈っただけ。だけど、それがあたしを不幸にした。

 あたしはバタフライナイフを抜いた。まだ、王様の血に濡れているそれを、そっとツバメの首筋に押し当てた。

 あたしにはこのナイフを引く理由がたくさんある。

 おかあさまの仇、あたしの不幸せの逆恨み、ツバメをあたしだけのものにする、目の前で苦しむツバメを楽にしてあげたい。

 ツバメの目とあたしの目があった。

 大好きな空色の瞳。それが、優しく細められたあとで、すべてを覚悟したように、ツバメが目を閉じる。

 あたしが、ちょっとだけ、力を入れればいい。それで終わる。