あたしは、ちろりと、王様があたしの口内に突っ込んでいる銃口を嘗めた。

 冷たくて、火薬の焦げ臭い臭いがした。

 王様が腕に力を入れる。王様はあたしを殺したいのだろう。

 たぶん、おかあさまの代わりに。

 あたしは、諦めた。


 …また、手が血まみれになることを。


 王様が倒れる。

 ―ほら、やっぱりあの女の、

 ―違うわ。

 あたしはきっぱりと否定した。

 だってあたしはちっとも楽しくなんかないもの。

 王様は何が楽しいのか、くつくつと喉を鳴らした。

 そうっとそうっと、壊れ物を扱うみたいに、おかあさまのお名前を呼んだ。

 それから、王様は、かつて王様だったただの死体になった。


 あたしは外に出る。

 血まみれの両手とドレスを、灰色の娘のコートで隠し、また、さく、さく、さく、と雪を踏み分けて行く。

 雪にぽたぽた血が滴っていた。

 まさかあたしが零したのかしら、と、焦るけれど、よく見れば、その血痕は路地裏のほうに続いている。

 あたしはそれを追いかけていって、そしたらその先でツバメが死にかけていたものだから驚いた。

 一瞬人違いかとも思ったけど、確かにあの、あたしの幼馴染みの、おかあさまを殺した、二度と会えないはずのツバメだった。

 艶のある黒髪は見る影もなくぼろぼろで、片方の目からはとめどなく血の涙が溢れ、白い肌は寒さで紫じみているけれど、それでもツバメだ。