ふわふわ、雪が舞い散る頃、あたしは灰色の娘のところに転がり込んだ。

 灰色の娘は、あたしの両手が血まみれなのを知っているけど、べつに追い出したりはしない。

 灰色の娘の手も、血塗られているから。

 灰色の娘は、あたしの前に細い指を広げて見せてくれたけれど、あたしにはやっぱり血の色は見えなかった。鼻をひくつかせてみたら、花の香水にまじってかすかな脂の臭いがしたかもしれないけれど、わからない。

 灰色の娘は指をいとしげに見つめる。

 いちばん愛した人を、彼女はその手で自分だけのものにした。

 なんて壮絶で確実な愛し方!あたしが絶句していると、灰色の娘は幸せそうに笑った。

 あたしはおかあさまも失ったし、ツバメとももう会うことはないから、屈託なく愛を語る灰色の娘がうらやましい。

 だってそんなとき、普段はつまらないただの灰色をしている瞳は、熱を帯びて甘くとろける。宝石みたいに綺麗。


 ところで灰色の娘のところは居心地がいい。

 あたしは日がな膝を抱えて座っていればいい。

 知らない男が来て、灰色の娘に数枚の紙幣を渡して、何回も何回もその華奢な身体を抱きしめるのを、空気のように眺めていればいい。

 それから灰色の娘に食事を運んであげる。

 彼女はそれだけしか求めない。

 ―気まぐれで置いているだけよ。何かあったら放り出すわ。

 灰色の娘は、何回も何回もそう言う。

 優しいのだと思う。

 だって少なくとも彼女は突然にあたしを拒絶しないようにしてくれる。

 あたしがそういうと、灰色の娘は、憮然とした顔で、変な子、と呟いて、毛布にくるまって、ベッドの端に座っている。